みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
4月になりました。3月の下旬くらいから桜もとても綺麗に咲きましたね。
気候も暖かくなり、4月はやはり新たな気持ちになりますね!
朝の出勤中の草むらには、クローバーがたくさんです。
当院も4月となり新たに動物看護師スタッフが2人、
一緒に働いてくれることになりました!
2人とも3月に学校を卒業したばかりの新人です!
最初はうまくいかないこともあると思います。
温かい目で見守っていただけますと幸いです。
初々しさに負けず、僕も毎日勉強していきます!!
さて、本日は「ACVIM consensus statementの猫の膵炎」の前回の続きになります。
前回の内容はコチラからどうぞ。
内容がとても難しい!とよく言われます。
出来る限りわかりやすく書こうと思っているのですが、
まだまだ力不足で申し訳ありません。
こちらも温かい目で見守っていただけますと幸いです。
前回は猫の膵炎の病態や診断の部分でした。
今回は主に治療の部分になります。
9.急性膵炎の治療
可能であれば、急性膵炎を引き起こす原疾患の治療をすべきですが、
一般的に猫の膵炎は特発性(原因不明)であることが多いです。
治療は主に、支持療法と症例ごとの症状に合わせた治療になります。
特に肝リピドーシスや胆汁鬱滞、急性腎障害、肺炎やショック、
心筋炎や凝固障害(DICなど)、多臓器不全などの合併症の治療、
糖尿病やケトアシドーシス、慢性腸症などをしっかり診断し、治療することは
猫の膵炎の治療にとって非常に重要なポイントとなります。
急性膵炎の疾患特異的な治療法はまだ証明はされていませんが、
新たな治療戦略が登場しつつあります。
例えば日本では近年、リンパ球機能抗原-1(LFA-1)の活性を阻害する薬が
犬の膵炎の治療に承認されました。
急性膵炎の治療目標は、輸液療法、疼痛管理、嘔吐や吐き気のコントロール、
栄養療法が中心となります。
9.1 原疾患の治療
トキソプラズマなどの感染症が膵炎を引き起こすことが知られています。
しかし、かなり稀なケースですので、毎回検査をする必要はないと考えられています。
また、膵炎を引き起こしやすい薬剤などは投与を避けるべきです。
9.2 輸液療法
脱水や電解質の補正を目的とし、晶質液を静脈内(もしくは皮下点滴として)に投与します。
膵臓は血管透過性の亢進や微小血栓形成が生じる結果、血流の変化を受けやすいと考えられます。
早期に静脈内輸液療法を行って正常血流量を維持することで、
膵臓の血液灌流と酸素供給を改善し、組織の損傷を抑えることができます。
人では、乳酸リンゲル液による早期の積極的な水分補給が、
急性膵炎患者の臨床的改善を早めることがわかっています。
猫の急性膵炎の治療における輸液剤には、さらなる研究が必要ですが、
乳酸リンゲル液または類似の輸液剤(例:酢酸リンゲル液)がしばしば第一選択となります。
過剰な輸液を避けるため、輸液療法は注意深くモニターしなければなりません。
9.3 制吐剤や消化管運動改善薬
猫の膵炎では、嘔吐と明らかな吐き気がしばしば認められますが、犬に比べて頻度は低いです。
体液や電解質の減少を最小限に抑え、逆流や二次的な食道炎の可能性を減らすために、
制吐剤が重要となります。吐き気や嘔吐を適切に管理することで、
自発的な経口摂取や経カテーテル栄養を早期に実施できるようになると考えられます。
マロピタントやオンダンセトロンなどが代表的な制吐剤となります。
また、胃の運動機能の低下や、消化管の機能的イレウス(閉塞)には
メトクロプラミドなどが有用となります。
ある研究では、膵炎の猫におけるドパミン拮抗作用のためにメトクロプラミドの使用が禁忌であると
示唆されていますが、このような禁忌を確認した臨床研究はありません。
9.4 疼痛管理
猫は痛みの評価が難しいです。
そして、猫の急性膵炎では、人や犬に比べて腹痛の報告が少なく、これはおそらく過小評価されています。
急性膵炎の猫には、オピオイドを主な鎮痛薬として使用すべきと考えられています。
ほとんどの猫にはブプレノルフィンで十分ですが、痛みが強い猫にはメタドンやフェンタニルが良いと考えられます。
マロピタントも内臓の鎮痛をもたらす可能性があることが示唆されています。
9.5 食欲刺激
急性膵炎の猫の多くは食欲がないため、栄養失調や消化管バリア・免疫機能の低下の原因となります。
したがって、食欲を回復させることは、とても大切です。
軽度から中等度の膵炎では、食欲増進剤が自力採食に効果的です。
猫に最もよく処方される食欲増進剤は、ミルタザピンとカプロモレリンになります。
9.6 栄養療法
栄養療法は,人の急性膵炎の管理において中心的な役割を果たしています。
経腸栄養が不足すると、消化管運動の低下、腸管絨毛の萎縮、腸管の血流の悪化、
バリア機能の変化、正常な腸内細菌叢の破壊などが起こる可能性があります。
これらのことから、重症急性膵炎患者では、早期の経腸栄養は、感染性膵壊死を最小限に抑え、
多臓器不全の発生率を低下させ、症状を改善する積極的な治療介入とみなされています。
対照的に、長期絶食や非経口栄養は、経腸栄養が達成できない場合を除き、もはや推奨されません。
International consensus guidelines committiee は、人の急性膵炎に対して、
入院後24時間以内に経腸栄養を使用することを推奨しています。
急性膵炎の最適な栄養管理に関する情報は、猫についてはあまり報告がありません。
膵炎の人の研究におけるエビデンス、および動物の実験的および臨床的研究の結果からは、経腸栄養法が支持されます。
膵炎のほとんどの猫は、食欲がないため、食事を控えることは有害であり、推奨されません。
さらに、一部の猫は、食欲がなかったり、食事ができなかったりすると、
肝リピドーシスを発症し、死亡率が大幅に増加します。
急性膵炎の猫では、強制給餌またはカテーテル給餌による経腸栄養を早期に開始すべきであると考えられます。
軽度から中等度の急性膵炎の猫は、適切な支持療法と対症療法で食事を始めることが多いですが、
合併症を伴う重症例では、適切な栄養補給のために栄養チューブが必要になることが多いです。
経腸栄養チューブの設置は、48時間以内に食欲増進剤に反応しなかった猫や、
来院前に食欲不振が長引いている猫に適応されることが多いです。
経鼻食道チューブまたは食道チューブは、急性膵炎の猫に最もよく使用されるチューブです。
9.7 その他の治療
より高度な輸液療法や、抗生剤、ステロイド、呼吸器疾患の合併症に対する治療、
膵臓に対する外科治療など様々な治療が挙げられます。
これらは症例ごとに病態や症状を評価し、必要に応じて検討されます。
例えばステロイドは、人、犬、猫の急性膵炎の治療に一般的に使用されることは少ないです。
昔から、グルココルチコイドが膵炎発症の危険因子になるのではないかという懸念から、
膵炎の治療にコルチコステロイドを使用することは消極的でした。
しかし、グルココルチコイドと急性膵炎との関連は、人では確立されておらず、
いくつかの研究では、犬ではグルココルチコイドは膵炎を引き起こさないことが示されています。
コルチコステロイドには幅広い抗炎症作用があり、アポトーシスの増強や膵炎関連タンパク質の産生増加に
重要な役割を果たし、膵臓の炎症に対する保護効果を発揮することが研究で示唆されています。
人や犬の急性膵炎の治療にグルココルチコイドを評価した最近の研究では、治療成績の向上が認められています。
しかし、猫の急性膵炎に対するグルココルチコイドの使用を評価した研究はなく、
日常的な使用を推奨するには十分な証拠がないのが現状です。
10.急性膵炎の予後
過去の4つの報告によると、猫の急性膵炎の死亡率は
9-41%とされています。
特に重篤な合併症などがある場合は、その予後が悪いと考えられます。
イオン化Caの低下、低血糖、高窒素血症もまた予後が悪い因子の一つです。
11.慢性膵炎の治療
猫の慢性膵炎の治療に関する報告はほとんどありません。
一般的に支持療法が主となります。
(急性膵炎の治療と基本的には同じような内容となりますので略。)
12.まとめ
結論として、急性膵炎、特に慢性膵炎は、猫では一般的に発生すると考えられていますが、
診断は依然として困難です。猫の膵炎の病因および病態に関して知られていることは、
他の動物種の膵炎や、猫を含む実験動物モデルからの推察になります。
猫の膵炎を正確に診断するためには、病歴や臨床所見、画像診断、血液検査、
さらには細胞診や病理組織診などを合わせて、総合的に判断する必要があります。
さらに症例ごとに鑑別診断を行い、他の疾患を除外するために追加の検査が必要となります。
急性膵炎の治療は、原疾患の治療、輸液療法、鎮痛剤、制吐剤、栄養療法、
および必要に応じてその他の対症療法および支持療法が行われます。
慢性膵炎の治療は、原疾患の治療、併発疾患の診断と管理、鎮痛剤、制吐剤、
場合によっては抗炎症剤や免疫抑制剤の治療が行われることになります。
以上がACVIM consensus statementの猫の膵炎の話になります。
少しでも猫の膵炎という病気の理解の役に立てればと思います。
僕も知識をアップデートし、明日からの診療に生かせるようがんばります!
5つ葉のクローバーを見つけました。
やっぱり春って楽しいですね!