みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
気づけば9月になりました。
梅雨が長いなと感じていたら、
とてつもなく暑い夏がやってきて、
甲子園が終わりました。
本当に月日の経つのは早いですね。
甲子園が終わったと思ったら、バスケットが盛り上がってます。
スポーツって素晴らしいです。
さて、本日は2023年8月に
Journal of Veterinary Internal Medicineに掲載された
「がんと血栓」の関係についての論文のお話です。
血栓については度々このブログにも書いており、
2ヶ月前にも書きましたので、こちらも参考にしてください。
(血栓症のお話)
はじめに
本来、人も動物も血管内で血液は循環しています。
正常な場合、血管内では血液は固まらないようになっています。
そして、血管の外に血液が漏れると血液は固まる、
つまり「止血」が起きます。
体に異常が起こった場合、血管内で血液が固まる、
「血栓」が起きたり、
血管外で血液が固まらない、
「異常出血、止血異常」が起きます。
この異常という状態の中の一つに、がんがあります。
血栓とは
血栓はご存知の通り、血が固まって詰まったものです。
血栓は赤血球や血小板、凝固因子などが集まってできています。
血栓ができるには3つの要素が大切と考えられ、
それをVirchowの3徴と呼ばれます。
①血流のうっ滞
②血管内皮細胞障害
③血液凝固亢進状態
とされています。
この3徴候が血栓を作りやすくします。
例えば心臓病があり、血流が悪くなると①のうっ滞が起こり、
血栓ができやすくなったりするといったことになります。
血栓というと大きな塊が血管の中を詰まらせるイメージをする方も
多いと思いますが、実際には小さな塊が、小さな血管内に詰まったり、
詰まらなくても、どんどん血小板や凝固因子を消費していったりしている
状態もさします。
がんと血栓
がんがあると、体の中の凝固能が亢進すると言われています。
また、がんそのものの影響で血流の変化が起きたりもします。
その結果、血栓ができやすい状態になっていきます。
微小な血栓が多数でき、多くの臓器に詰まって臓器障害を起こします。
この代表的なものが、播種製血管内凝固(DIC)です。
DICになると亡くなる可能性が高くなる、危険な状態です。
そのためできるだけ早期に治療介入する必要があります。
血栓を見つけるということ
一方で、血栓を見つけるのは容易ではありません。
明らかに大きな血栓であればエコー検査やCT検査で発見することもできますが、
微小な血栓などは画像検査で発見することは困難です。
肺血栓塞栓症など、死後解剖でわかることも多いです。
一般的には血液凝固マーカーを組み合わせて予測することになります。
一つのマーカーを測ればいいというわけではないということもポイントです。
さらにこれらの検査は比較的高価な検査となるため、
毎回測定することも悩ましい点になります。
論文の内容
前置きが長くなりましたが、今回の論文では、
肉腫とよばれるがんの犬32頭、がん腫の犬30頭、健常犬20頭における
血栓塞栓症の有病率を前向きに調べたものになります。
検査に使われたパネルは
・血小板数
・トロンボエラストグラフィー
・フィブリノーゲン
・Dダイマー
・凝固因子のⅩ、Ⅶ
・アンチトロンビン活性
です。
担癌犬は死後に病理検査にて血栓の有無も確認されました。
結果、血栓塞栓症は32/62頭、52%の担癌犬に認められました。
微小血栓が認められたのは31/62頭で
その中の21頭は腫瘍内血栓で、10頭が遠隔血栓でした。
血栓がある犬はDダイマーが非常に高く、血小板が少ないことが
統計学的に有意に差があることがわかりました。
特にDダイマーの濃度が500ng/mlを上回った場合、
その感度は80%、特異度は41%でした。
感想
ちなみに肉腫担癌犬のがんの内訳として、13/30頭が血管肉腫でした。
また、今回の担癌犬の中に、リンパ腫や白血病といった
比較的血栓ができやすいとされる血液腫瘍は含まれていませんでした。
少し腫瘍の種類に偏りがあるので解釈は注意が必要です。
日本では凝固系マーカーとしてTATも測定できるので、
このマーカーも含めたらどうなるのかも気になりました。
肉腫担癌犬に血管肉腫の症例が多かったとはいえ、
思った以上に血栓が起こっていることに驚きました。
血栓という、見えないものが相手だからこそ、常にその存在を疑いながら、
少しでもがんとの闘病の支えができるようにしたいと感じました。