犬の血液疾患に対する脾臓摘出術

海外論文

みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
気づけば11月も半ばとなりました。
今年も残すところ1.5ヶ月です。
心なしか、そわそわしてしまいます。

今週末は臨時休診です!

11月19日(土)、20日(日)は大阪で開催される
動物臨床医学会年次大会に参加するため
休診とさせていただきます。
みなさまにはご迷惑をおかけいたしますが、
ご理解、ご協力のほど、よろしくお願いいたします。

健康診断が人気です

毎年10-12月に秋の健康診断キャンペーンを行っています。
年々、健康診断を受けられる方は増えていますが、
今年は特に多い印象を受けます。
秋の健康診断の受診数スタッフが健康診断のポスターを待合に作ってくれました!
その中に受診数の木のポスターがあったのですが、
すぐに満開になりました。
秋の健康診断の受診数健診を受けることで、病気の早期発見もそうですが、
普段の健康について考えるきっかけになったり、
大切な家族との絆を深めることになったりすることが、
僕はとても素敵なことだなと感じます。

歯科X線検査

麻酔下における歯科処置は比較的件数の多い手術です。
歯石除去やスケーリングで歯の健康を整えたり、
場合によっては歯周病の進行により
抜歯が必要になるケースもあります。
数ヶ月前より歯科X線機器を当院で導入しました。
この検査機器を用いることで、通常のX線検査ではわかりにくい
歯周病の進行具合がよくわかります。
この子の歯は見た目、歯肉も後退してなくて
歯を温存できそうに見えますが・・
歯周病の犬歯科X線撮影をしてみると、
歯周病で下顎が溶けているレントゲン画像このように歯の根元の周りの骨が溶けていることが分かります。
この歯を残しておくと結局匂いの元になったり、
歯周病の進行につながり、最悪、顎の骨が折れてしまうこともあります。
この歯は抜歯をしなければなりません。
歯周病は全身疾患と考えています。
早期の治療で、いろいろな病気の予防につながると思います。

今日のお話

さて、本日は今年の7月に
Journal of Veterinary Internal Medicineに掲載された
「犬のIMHA、ITP、エバンス症候群に対する脾臓摘出の効果」
についてです。

言葉の整理

まずは用語の意味からです。
IMHA:免疫介在性溶血性貧血
ITP:免疫介在性血小板減少症
エバンス症候群(CIST):IMHAとITPの併発
をさします。
(ちなみに犬では完全にエバンス症候群を証明することは
難しいと考えられています。)

IMHAもITPも
自己の免疫により赤血球や血小板が破壊され、
貧血や血小板減少症を引き起こす疾患です。
自分の赤血球や血小板に対する抗体が
体の中で作られてしまい、
自分の細胞を自分の免疫が破壊する自己免疫性疾患
と考えられています。
実際はその自己抗体の証明が難しく、
多くの場合は総合的に診断されます。

脾臓摘出術

IMHAやITPの治療は基本、ステロイドや
免疫抑制剤による内科治療となります。
内科的な治療でうまくいく症例も多くいますが、
難治性と呼ばれる、
コントロールが難しい症例も少なくありません。

抗体がくっついた赤血球や血小板は
主に脾臓で破壊されることが知られており、
破壊の場所をなくす目的で
脾臓摘出術が治療選択に含まれます。
(抗体が作られる場所を減らす目的も含まれます。)

元々脾臓は胃の近くにある臓器で、
古い血液の処理をしたり、
リンパ組織として働いたりしています。
もちろん身体にとって必要な臓器ですが、摘出しても
重篤な問題は起こらないと考えられます。

脾臓摘出の効果

貧血や血小板減少症は場合によっては命にかかわります。
脾臓摘出を必要とする症例の多くは状態もよくはありません。
リスクを冒してまで手術をするメリットがあるのでしょうか。
今までにも免疫介在性血液疾患に対する脾臓摘出の報告は
いくつかありました。

そしてこの論文ではその効果を以下のように書いています。
ITPの症例7頭中完全奏効が3頭、部分奏効が3頭。
IMHAの症例7頭中完全奏効が2頭、部分奏効が2頭。
エバンス症候群3頭中1頭が完全奏効
でした。

症例数が少ないのでこれだけで判断はできませんが、
一定の効果は得られる可能性があるということ、
ITPではその効果が高いことが結論づけられています。
以前からITPでは脾臓摘出の効果が高いと報告されており、
その報告などを裏付けるものとなっています。

個人的に興味深かった点は
IMHA、ITP、CISTどれにおいても、
脾腫(脾臓が大きい)の有無で効果に
差が出ていない点でした。

当院の成績

当院開業後3年間で、犬の免疫介在性血液疾患で
脾臓摘出術を実施した症例は5頭でした。
内訳はIMHAが1頭、NRIMAが3頭、PRCAが1頭でした。
ITPの症例で脾臓摘出を実施した症例はいませんでした。

5頭中3頭が完全奏効〜部分奏効が得られましたが、
2頭は効果を認められませんでした。
手術をする前から、効果予測ができると最高ですが、
現時点では明確な判断基準はありません。

まとめ

免疫介在性血液疾患に対する脾臓摘出の効果は
現時点で絶対に効果があるとは言えません。
さらに症例の状態によっては
非常にリスクの高い手術となります。
主治医の先生のご判断、
ご家族の意志、症例の状況が大切です。

今後の獣医療の発展が助けられる命を
増やしていけると信じています。

原文はコチラ→Splenectomy in the management of primary immune-mediated hemolytic anemia and primary immune-mediated thrombocytopenia in dogs

 
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