みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
少し前に2022年になったと思ったら、
もう1月も中旬です。
油断すると2022年も終わってしまいますね。。
毎年、年末年始にその年の反省と
次の年の目標を考えます。
今年もしっかりその目標を達成できるように
精進していきたいです。
お知らせ
難しい論文の話になる前に、
写真にあるような犬用の低アレルギートリーツの取り扱いを始めました。
写真のビスケットは、なんと原材料はジャガイモ、豆乳、各素材のみです。
その他にも北海道のエゾ鹿ジャーキーや魚のジャーキーなど、
原材料にこだわったおやつを置いています。
アレルギーに悩むわんちゃんたちに対し、
この食事はダメ、これだけを食べて!、
というアドバイスだけではかわいそうだなと
ずっと感じていました。
少しでも生活の中の楽しみを増やすことができたらと
思っています。
待合に置いてありますのでご覧ください。
さて、今回も前回の続きとなります。
しばらく僕のブログは輸血反応の話が続きます。
きっとこの先、色々な部分で役立つと思っています。
申し訳ありませんが、
今しばらくお付き合いください。
2021年にJournal of Veterinary Emergency and Critical Careに
3本掲載された、
「AVHTM(獣医血液学・輸血学協会?)による小動物の輸血反応についての
コンセンサスステートメント」についてです。
Part1:輸血反応の定義と臨床徴候
Part2:輸血反応の予防とモニタリング
Part3:輸血反応の診断と治療
となっており、本日はPart1の論文の後半のお話になります。
前回、輸血反応の種類とその前半部分の内容を書きました。
今回はその後半部分(溶血性輸血反応の続き)となります。
遅発性血清学的輸血反応(DSTR)
DSTRとはレシピエント(血をもらう側)が
持っていない赤血球抗原に対して抗体が
作られることによって起こる免疫反応です。
自然に抗体が作られていた場合、
初回輸血時に起こることもありますし、
輸血後に抗体が作られて免疫反応を起こす場合もあり、
他にはもう一度同じドナーからの輸血が行われた場合などに
発生します。
DSTRは”サイレントDHTR”とも呼ばれます。
人医学ではDSTRは臨床症状に関連がなく、輸血された抗原に対し
新たに作られた抗体を証明する事で説明されます。
同定のためにはドナーとレシピエントの血清学的検査が
必要となります。
DSTRを確定するためには
輸血前にDAT(直接抗グロブリン試験)が陰性であるもしくは、
メジャークロスマッチおよびIAT(間接抗グロブリン試験)が陰性で
輸血後24時間から28日後にDATおよびIATが陽性になることを
証明する必要があります。
獣医領域においてもDSTRの報告はいくつかあります。
(ただし、臨床現場でDHTRなのかDSTRなのかなどを判断することは
困難を極めます。判断をする術がないのが現状です。)
輸血伝播感染症(TTI)
TTIはそのままですが、輸血製剤によって伝播される感染症です。
まず輸血前にレシピエントに感染がないことを確認しておく必要が
あります。
血液製剤に細菌感染などが起こることでTTIを認めます。
特に保存した製剤に発生しやすいと考えられます。
原因菌としてグラム陰性菌も陽性菌も関係していると考えられていますが、
特にグラム陰性菌で頻繁に発生すると言われています。
敗血症性輸血反応は通常輸血中あるいは輸血後4時間以内に
認められると考えられており、輸血後に
発熱や低血圧を起こした場合はその可能性を考慮する必要があります。
獣医学領域におけるTTIの報告頻度はそこまで多くありません。
保存時に細菌感染が起こることよりも、
採血時に細菌が侵入することが原因となる方が
多いと考えられています。
低カルシウム血症/クエン酸中毒
抗凝固剤であるクエン酸は主に肝臓で代謝されます。
そのため肝機能が低下している患者では
クエン酸の代謝能が落ちます。
その結果、低Ca血症や低Mg血症を引き起こします。
新鮮凍結血漿などはクエン酸量が多いので、
Caのキレートをより多く引き起こすことが知られています。
大量輸血後に低Ca血症の症状が出る場合などは
注意が必要です。
犬においても輸血後にCaやMg濃度が減少し
吐き気、嘔吐を認める症例がいます。
頻脈や流涎、心拍出量の低下などの症状を呈す場合もあります。
これらの症状は輸血中止後1-2時間で消失すると考えられています。
輸血関連高アンモニア血症
血液製剤の保存中にアンモニアが発生し、
その製剤を投与することで発症します。
輸血関連高アンモニア血症の臨床症状には、
運動失調、認知症、頭部圧迫、旋回、痙攣などが
挙げられます。
動物の保存血液製剤においても
アンモニアが上昇することは知られています。
一方で輸血後に高アンモニア血症の症状を
呈した報告は現在のところありません。
低血圧性輸血反応(HyTR)
おもに赤血球輸血で認められる病態で、
輸血開始後数分から数時間で発症します。
凝固因子の第Ⅻ因子は高分子キニノゲンを
ブラジキニンへ変換し、ブラジキニンは
血管拡張作用や血管透過性を上げることが
HyTRの発現のひとつと考えられています。
症状として、吐き気、頻呼吸、めまい、腹痛、呼吸困難など
があり、輸血をやめることで症状の改善を認めます。
獣医療におけるHyTRの報告は現在のところありません。
輸血後の低血圧は認めるものの、他の病態が原因と
考えられています。
輸血後紫斑病(PTP)
PTPは血小板抗原に対する免疫反応で生じます。
輸血後5-12日以内に血小板減少症を引き起こすか
どうかに基づいてPTPを診断します。
また、その他の血小板減少症の疾患を除外しておく
必要があります。
獣医療では1例のみPTPの報告があり、
輸血後8日で血小板減少症を発症し、
その際の血小板に結合したIgG抗体が陽性であることが
確認されました。
輸血関連移植片対宿主病(TA-GVHD)
TA-GVHDは人医療では輸血における稀ではあるものの、
致死的な合併症です。
輸血後48時間から6週間強で発症すると考えられ、
最初の症状を認めるまでの中央値は11日といわれています。
皮疹や肝腫、下痢などの症状や汎血球減少症などがみられ、
致死率の高い病態です。
獣医療において、
放射線照射を行なっていない白血球の繰り返しの輸血で
TA-GVHDを発症した報告があります。
ここまでがPart1の論文の内容です。
病気の定義がメインですので、
かなり難しい内容でした。
「輸血」という一つの治療には
とても多くの合併症があり、
決して簡単な治療ではないこと、
慎重なモニタリングが必要であること、
などがわかると思います。
輸血の治療が必要な患者様は
状態も悪いことが大半だと思います。
亡くなってしまう可能性もあるような状態だからこそ、
一つ一つ、小さな変化に気づき、
早めに合併症へ対策をすることが、
生命をつなぐ大きなポイントになると思います。