抗がん剤あれこれ

みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
まだまだ寒い日が続きます。
最近朝の通勤時に、「電熱ベスト」なるものを導入してみました。
モバイルバッテリーを中に入れ、そこから電気を供給して、
ベスト内の電熱線を暖めるというものです。
これが意外と暖かくて、ありがたい存在になっています。
気合だけでは乗り切れないことはたくさんあります。
文明の力に頼るのも一つです。

本日は前回の続きで輸血反応の話をしようかと思っていましたが、
Part1がちょうど終わったので、少し違う話をしようと思います。
そこで「抗がん剤(化学療法)」のお話を簡単にしたいと思います。

抗がん剤とは?

癌(がん)の治療は近年では大きく4つの柱があると考えられます。
外科療法、化学療法、放射線療法、免疫療法です。
どれも利点欠点があり、病気や患者さんの状態ごとに
何を選択するかを考える必要があります。
抗体医薬や分子標的薬などの新しい治療は免疫療法に含まれます。
この中の化学療法で用いられる薬剤が、抗がん剤です。
抗がん剤と一言で言ってもたくさんの種類と投与方法があり、
これもやはりそれぞれに利点欠点があります。

気になるあれこれ

診察をしていて、抗がん剤のお話をする時、
多くの飼い主様が気にされることが、
「効果」と「副作用」そして「費用」だと感じます。
これらは一概にはなんとも言えません。
ある癌に対しては、抗がん剤がとても効果を示す可能性がある一方で、
副作用も強く出る可能性もあります。
あまり劇的な効果はないけど、ゆっくり効きながら、
副作用がほとんど出ないこともあります。
費用も体重や状態、施設によって様々であります。
一つずつ説明したいと思います。

抗がん剤の効果

上述の通り、抗がん剤の効果は一概には言えません。
例えば、よく遭遇するがんで、「多中心型リンパ腫」という
血液のがんでは、化学療法がメインの治療選択肢となります。
多中心型リンパ腫ではCHOPプロトコルといわれる投与方法を
基本として治療されることが多く、その効果は約10ヶ月ほどと
考えられています。
もちろんそれ以上の子もいれば、そこまで効かない子もいます。

脾臓にできる悪性の腫瘍である「血管肉腫」といわれる
がん(肉腫)は外科治療後に化学療法を行う選択肢があります。
その効果は約6ヶ月ほどと考えられています。

がんの種類によって、また患者様の状態によって、
その効果は大きく変わってきます。
その治療にどこまでの価値を見出せるかがポイントだと
僕は考えています。

抗がん剤の副作用

一般的な抗がん剤の副作用は「BAG」と表現されます。
Bは骨髄抑制、Aは脱毛症、Gは消化器毒性です。
Bの骨髄抑制が強く出る抗がん剤、そんなに出ない抗がん剤があったり、
同じ抗がん剤でも骨髄抑制が強く出る患者様がいたりします。
骨髄抑制が起こることが悪いことではありませんが、
どこまで起こるかをしっかり把握し、対策をしておくことが大切です。

Aの脱毛症は、動物ではそこまで強くは起きません。
毛が薄くなったり、ひげがなくなる子はたまにみかけます。
ですが全く毛がなくなってしまうい、ツルツルになることはほぼありません。

Gの消化器毒性も考え方はBの骨髄抑制と同じで、様々です。
ですが、この副作用は嘔吐や下痢を主体とし、元気食欲の低下を引き起こします。
消化器毒性が強く出てしまうと、
「がんだし、そんなに先が長くないかもしれないのに、治療のせいで
元気食欲がなくなるのは見たくない、もう抗がん剤をしたくない」と
感じる飼い主様が多い気がします。僕が飼い主であってもそう思います。
ただ僕が思うことは(あくまでも僕個人の感じ方ですが)、
一回消化器毒性が出たからといって、それが毎回起きるとは限らないので、
もう一回はがんばってほしいということです。
次にその抗がん剤を投与する時に、対策を打てます。
しんどい思いを極力減らす治療を追加することができます。
しっかりと主治医の先生と相談をして今後の治療を決めていただきたいです。
これらBAG以外にも各抗がん剤それぞれに特徴的な副作用が
あったりします。投与前にしっかりと理解する必要があります。

費用

抗がん剤治療は動物病院の治療の中では
比較的高額な治療になると思います。
抗がん剤の薬価だけではなく、検査代や
支持療法、使われる医療備品、その廃棄など、
多くの特殊なことが必要となります。
病院ごとに検査や、薬剤、使う備品が異なったりすることで、
費用にも違いが出てきます。
費用はとても大きな部分になることが多いです。
獣医師に遠慮せずに相談していただきたいです。
一人一人、各ご家庭に合った治療を選択できる様に
努めたいと考えています。

さいごに

今日は抗がん剤について簡単に書かせていただきました。
ただ僕が思う大切なことは、
「抗がん剤を選択しないことが悪ではない」
ということです。
もちろん、抗がん剤をするときは全力で治療させていただきます。
ですが、抗がん剤をしないならそれ以外でできることを、
一緒に考えたいと思います。

患者様に合った最適な治療≠医学的に最高の治療

だと思います。
また機会があれば抗がん剤について書きたいと思います。

PAGE TOP