Medical Guide
輸血
輸血とは
輸血は、重度の貧血や凝固異常(血が止まらない状態)など、生命に関わる事態を脱するための緊急避難的な救命治療です。 適切なタイミングで適切な血液製剤を投与することが、救命につながります。
主な目的
- 低下した酸素運搬能力の回復(赤血球の補充)
- 止血機能の正常化(凝固因子や血小板の補充)
当院の取り組み
かつては全血輸血(血液をそのまま投与する)が主流でしたが、現在は患者の病態に合わせて必要な成分だけを投与する「成分輸血」を推奨しています。 これにより、不要な成分による過負荷や副作用のリスクを最小限に抑えることができます。
血液製剤の種類
成分輸血を行うことで、1頭のドナーから採取した血液を複数の患者の治療に役立てることが可能です。
濃厚赤血球(pRBCs)
全血から血漿を取り除き、赤血球を濃縮したものです。少ない容量で効率よく赤血球を補充できるため、心臓や腎臓への容量過負荷を軽減できます。
- 適応:失血・溶血・赤血球産生不足による重度の貧血
新鮮凍結血漿(FFP)
採血後速やかに分離・凍結された血漿で、すべての凝固因子が含まれています。
- 適応:凝固因子の欠乏(肝不全・殺鼠剤中毒・DICなど)
- フォン・ヴィレブランド病など特定の遺伝性疾患にも使用
全血(Whole Blood)
赤血球・血漿・機能的な血小板のすべての成分を含む血液です。 特に急激な大量出血を伴うショック状態など、すべての血液成分が著しく不足している場合に適しています。
- 新鮮全血(FWB):採血後8時間以内に使用。赤血球・血漿・機能的な血小板をすべて含み、多発外傷や外科的大量出血に対応します
輸血のリスク(副反応)
輸血は救命治療である一方、異物の投与であるため常に副作用(輸血副反応)のリスクを伴います。 当院では輸血中は継続的にモニタリングを行い、副反応の早期発見に努めています。
免疫学的副反応
急性溶血性副反応
血液型の不適合により投与された赤血球が直ちに破壊される反応。特に猫のB型にA型血液を輸血した場合、極めて少量でも致命的となることがあります。
発熱・アレルギー反応
最も多く見られる反応。蕁麻疹・発熱・嘔吐などが含まれます。
非免疫学的副反応
容量過負荷
輸血量が多すぎる、あるいは速度が速すぎることで心不全を引き起こすリスク。
感染症の伝播
ドナーが持っている病原体(バベシアやフィラリアなど)が移るリスク。当院では厳格なドナースクリーニングによりこれを防いでいます。
血液型の確認
安全な輸血のためには、事前に血液型を判定し、必要に応じて「交差試験(クロスマッチ)」を行うことが不可欠です。
犬の血液型
DEA(Dog Erythrocyte Antigen)システムで分類されます。
- 臨床的に最も重要なのはDEA 1(陽性・陰性)
- DEA 1陰性の犬は輸血ドナーとして広く利用される
- Dal抗原など他の血液型抗原も副反応に関与する可能性がある
- 輸血歴のある個体では特に交差試験の実施を推奨
猫の血液型
AB式(A型・B型・AB型)の3種類があります(人のO型に相当する血液型はありません)。
- 猫は生まれつき異なる血液型への抗体(自然抗体)を持つため、初回でも事前の血液型判定が絶対条件
- 近年、AB式とは別のMik抗原なども発見されており、より精度の高い適合試験が求められている
輸血対応についてのご案内
輸血は当院に通院中の患者さまへの治療として実施しております。輸血のみを目的とした外部からのご依頼には対応しておりませんので、あらかじめご了承ください。
また、人と異なり動物には公的な献血制度やドナーバンクが存在しないため、血液製剤の確保には限りがあります。患者さまの状態や血液型の適合状況によっては、ご希望に添えない場合もございます。輸血が必要な可能性がある場合は、できる限り早めにご相談いただけますと幸いです。
