免疫介在性血小板減少症(ITP)について

みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
梅雨ですね!我が家の家庭菜園たちは雨に喜び、すくすくと育っています。
毎朝起きて窓からちらっと観察する。結構幸せな時間です。

よくよく見ると、小さなオクラたちが!!
お分かりいただけたでしょうか?
大葉にネギ、オクラ・・素麺が映えますね!!笑

本日は、2019年にVeterinary Clinical Pathologyという有名な論文雑誌に投稿された、Dana N. LeVineらによる
Immune thrombocytopenia (ITP): Pathology update and diagnostic dilemmas」の内容についてです。
かなりマニアックで難しい話なので、場合によってはここでスマホを閉じていただいてもいいかもしれません笑。

Immune thrombocytopenia (ITP)とは免疫介在性血小板減少症といわれる病気であり、簡単に説明すると
何らかの原因により体内で血小板やその大元である巨核球が破壊される病気で、血小板が下がることにより、
(血小板は血を固める働きをする細胞なので)身体の様々な部位で出血が起こってしまう恐ろしい病気です。
(ITPについてはこちらも参考にしてください)

・ITPなのか?IMTなのか??IMTPなのか???
結論から言うと、最新の話ではITP。
ITP: immune thrombocytopenia の略で使われることがIWG(International Working Group)によって推奨されています。
idiopathic thrombocytopenic purpura(特発性血小板減少性紫斑病)の略として以前は使われていた歴史もあります。
IMT/IMTP: immune-mediated thrombocytopenia の略で獣医療の論文では一時期使われていた言葉。
この論文ではIWGの推奨を支持し、ITPと記載されています。

・ITPの病態とは
ITPは血小板破壊と巨核球、血小板産生の停止の両方を特徴とする自己免疫性疾患です。
血小板に対する自己抗体がくっつき、特に脾臓において貪食され、結果として血小板数が減少します。しかし、
この病態以外にも、T細胞が血小板破壊の中心的役割を果たしていることがわかってきました。
人のITP患者では制御性T細胞(Treg)の数と機能が減っていることがいくつかの研究でわかり、犬においても同様な
ことがわかってきました。さらにTPO製剤で治療するとこれが回復すると言われています。
自己抗体が結合することで貪食されて起こる血小板破壊だけでなく、細胞障害性T細胞による血小板破壊もITPの病態と考えられ、
さらには補体もまた血小板や巨核球を破壊すると言われています。

・ITPのブレイクスルー
ITPの自己抗体のターゲット依存性血小板破壊の経路にはいくつかあることを理解することが、ITPの理解と治療のブレイクスルー
となります。(かなり難しい話になりますが、)例えば免疫グロブリン製剤(IVIG)は抗GPⅡb/Ⅲa抗体に対して効果的である一方で、
GPⅠbα抗体によって引き起こされる血小板減少症には効果を示さないといったことです。

・診断と分類のガイドライン
非常に複雑な病態であり、個々によって免疫応答は異なってきます。全てのITP患者で出血を認めるわけでもなく、血小板数単独で
出血を確実に予測できるものでもありません。また、全てのITP患者に治療が必要かどうかも疑わしいです。
個々に合わせた治療法の選択が必要です。
人も動物もITPの診断のゴールドスタンダードはなく、他の血小板減少症を引き起こす疾患の除外診断となります。
IWGは用語の統一化や疾患の重篤度や治療反応に対する一貫した評価基準が必要であると強調しています。

・除外すべき項目とは?
血小板減少症の症例に対して、まずは血小板の消費の亢進や産生の低下を引き起こす他の原因がないかを検査する必要があります。
原発性ITPなのか、薬剤や腫瘍などによる続発性ITPなのかなども分類しなければいけません。
まずは血液塗抹を用いて実際の血小板を観察します。特に血小板凝集の有無を確認します。
キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルやノーフォーク・テリア、ケアン・テリアなどの犬種によくみられる
大型の血小板減少症(macrothrombocytopenia)なども考慮すべきです。これらはβ1遺伝子変異が原因であると考えられています。
さらに、消費亢進の原因としてDICなどの病態を除外する必要があります。
続発性ITPの原因として、腫瘍、感染症、肝臓病、骨髄疾患、薬剤暴露や、ベクター媒介疾患によるものなどがあります。
これらの疾患の有無も検査をしていく必要があります。

・ITPの診断のためのエビデンスの積立
1.血小板数のカウントは手助けになるか?
いくつかの研究において、原発性ITPは他の血小板減少症を引き起こす疾患より、重篤な血小板減少症を示すと言われています。
さらに続発性ITPに比較しても原発性ITPはより重篤な血小板減少症を認めると言われています。
血小板数だけではなんとも言えない場合が多いですが、20000/μLを下回る血小板減少症では原発性ITPを疑うものとなります。

2.血小板のサイズは役にたつか?
MPV(平均血小板容積)がITPの犬は健常犬よりも高いとの報告がある一方でそうではないとの報告もあります。
MPVが高ければITPの診断の一助になるが、そうでなくてもITPを除外はできないと考えられます。
また、MPVやplateletcirtを用いることで、キャバリア・キング・チャールズ・スパニエルにみられるような
macrothrombocytopeniaとITPの鑑別に役立てることも報告されています。

3.網状血小板数や幼若血小板比率(IPF)の測定について
血小板の再生像を表す網状血小板やIPFは結論から述べると現段階でITPの診断ツールとしてはやや弱いと言えます。
IPFの絶対数は血小板減少のメカニズムが、産生の減少なのか、破壊の亢進なのかを判断するには有用なツールとなります。
これはそのまま治療選択につなぐことができます。
すなわち、産生を亢進させる必要があるのか、破壊を止める必要があるのかといったことです。
産生を亢進させる治療を行うと、IPFの増加とともに血小板の増加が起きますが、破壊を止める治療を行なった場合、
IPFの増加を伴わない血小板の増加を認めます。

4.骨髄検査の必要性
骨髄検査は単純なITPの最初の評価としては推奨されていません。
一方で難治性の場合や、非典型例、人で60歳以上の患者には役にたつ検査であると考えられます。
臨床研究において、骨髄検査は犬のITPの診断検査には一般的に含まれていません。
レトロスペクティブな研究において、骨髄検査は診断的、予後的情報を与えないと結論づけられています。
さらに大規模な研究では骨髄の巨核球低形成が生存期間や回復期間の予測には影響しないと報告されました。
(その後ある研究ではこれらの報告に反論しましたが、小規模かつ統計処理が行われていない報告でありました。)
論文著者は骨髄検査をルーティンでは行なっていませんが、そのほかの疾患が疑われた場合には実施しています。

5.抗血小板抗体の測定
抗血小板抗体の存在は血小板破壊の重要な役割を果たしていると考えられます。
ですが、血小板の構造的に免疫グロブリンレセプターを表面に有することなどから、陽性結果の解釈が困難です。
感度、特異度が低いことから、consensus criteriaには含まれていません。
さらに人ではITP患者の40%では細胞傷害性T細胞関連血小板破壊のため、抗血小板抗体は発見されなかった
との報告もあります。

6.トロンボポエチン濃度の測定
人も犬も確立されたものは現在のところ存在しません。
犬では測定も困難と考えられます。

・治療に関して
犬ではステロイドと免疫抑制剤の併用による免疫抑制療法がITP治療の主力になります。
人ではまずステロイドやIVIG、セカンドラインとしてリツキシマブや抗CD20抗体薬、脾臓摘出、
TPO受動態作動薬などが使われます。

・重篤度と治療反応の指標
人ではITP特異的な出血評価ツール(ITP-BAT)と呼ばれるものを用いて重篤度などを評価します。
近年、犬においても同様に”DOGiBAT”と呼ばれる、出血評価ツールを用いて犬のITPの重篤度や治療反応を
評価した報告がなされています。今後、このDOGiBATをもちいた研究が増えることで、臨床現場でも
使用できる機会がでてくるかもしれません。

・まとめ
1.血小板破壊は抗体だけでなく、細胞傷害性T細胞によっても生じる。
2.抗血小板抗体は血小板をなくすこととや、治療反応にある程度影響を与える。
3.ITPは血小板破壊だけの病態ではなく、T細胞や抗体依存性巨核球攻撃、さらには不適切なTPO濃度により
血小板産生の低下も引き起こす病態である。

以上が論文の内容になります。
少し長くなりました。ここまでお付き合いいただいた方、ありがとうございます。
やや訳に難がある場所もありますが、お許しください。
日々、新しい情報を学び、それを診察に生かせるよう、努力を続けます。

原文はこちら→Immune thrombocytopenia (ITP): Pathology update and diagnostic dilemmas

当院のトネリコ(左)も少しずつではありますが、伸びています。
少し前に患者様におうちのトネリコ(右)を分けていただきました。

立派です!どんどん大きくなって、院内のウンベラータとともに当院のシンボルツリーになってほしいです。

 

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