2020 AAHA/AAFP 猫ワクチンガイドライン

みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。

今日は投稿されたばかりの「2020 AAHA/AAFP 猫のワクチンガイドライン」のお話です。
最近、猫を飼い始めた、拾った、もらったといった飼い主様がとても多いです。
ワクチンはどのような感じで接種していく必要があるのか?といったことについて
「ガイドライン」として投稿されました。ちなみに
AAHA: American Animal Hospital Association(アメリカ動物病院協会)
AAFP: American Association of Feline Practitioners (アメリカ猫専門医協会)
です。
犬猫のワクチンのガイドラインはこれとは別にWSAVA(世界小動物獣医師会)が2016年にも出しています。
このガイドラインも踏まえた上で今回のガイドラインが出されました。
どちらもほぼ同じ内容になっています。
大事なのは、2020年現在、猫のワクチンガイドラインが改訂され続けているという事実です。
言い換えると、まだしっかりとガイドラインが定まっていないということです。
いつもは論文を訳した内容を書いているのですが、今日はこれらのガイドラインの説明と、
当院での考え方を交えながら書いていこうと思います。

論文中にも書いてあるのですが、ワクチンガイドラインが全ての猫にあてはまるものではありません。
個々を評価し、家庭環境や飼育環境なども踏まえた上で、その子にあった方法を考える必要があります。
また数年後にはこのガイドラインがまた改訂されるかもしれません。あくまでも2020年現時点での話になります。
かかりつけの先生とよく相談されて、ワクチンの方法を考えると良いと思います。

今日も難しい話も多いですが、とても重要なことですので、理解をしていただきたくて、
できるだけ(いつもより)わかりやすく書こうと思います。

子猫の免疫 -母乳からの移行抗体を考える-

生まれた子猫はお母さんからの母乳を通じて抗体(ウイルスなどと闘うもの)をもらいます。
これを母乳由来抗体(MDA)といいます。これはほとんどは出生後24時間以内に吸収されます。
とても大事なものですが、これがワクチンの効果に影響をおよぼします。
MDAはワクチンで抗体が上がるのを抑えてしまいます。さらに子猫自身が作る抗体をも抑えてしまいます。
子猫の体内で3-4週齢でMDAは最も低くなり、その後5-7週齢で子猫自身の抗体が増えてきます。
つまり、子猫は生後1ヶ月齢くらいが最も感染症にかかりやすい時期となります。
子猫によっては、MDAがもっと長く高濃度で維持される場合があり、これが、ワクチンの効果を
妨げる原因となってしまいます。

子猫のワクチンの接種 -いつから?いつまで?何回必要??-

MDAは通常8-12週齢までにはワクチンの効果を妨げない濃度まで下がります。
一方でMDAレベルがきわめて高い子猫は12週齢を超えてもワクチンの効果を妨げてしまうことがあります。
16週齢でワクチン最終接種を行った猫の3分の1で、20週齢になってもしっかりワクチンの反応が得られなかった
との報告もあります(この報告は症例数が少ないため再検討が必要ですが)。
ワクチンの接種開始時期は6-8週齢とされています。これは6週齢よりはやく接種した場合に、ワクチンにより
病気が発症してしまうケースがあるからです。その後は3-4週おきに追加接種をしていき、上記の理由から、
16-20週齢以降に最終接種が必要であるとガイドラインで定められています。
さらに、20週齢でMDAが残ってしまうケースを考慮し、以前であれば最終接種から1年後にブースターとして
追加接種が推奨されていましたが(WSAVAなど)、現在は生後6ヶ月で再接種が推奨されています。

この推奨に従えば、例えば生後6-7週齢で初回接種を行った猫は、3-4週ごとに1回追加接種を行い、
6、10、14、18週齢での接種となり4回の接種を行うこととなります。さらに6ヶ月齢で再接種を行うとすると、
初年度のワクチンは5回接種が必要と言うことになります。
初年度は2回接種して次回は1年後再接種としてきたワクチンプログラムからは考えられないような回数になります。

ブースターワクチンの意義

ブースターワクチンは子猫のコアワクチン接種に重要であり、以前は生後 12 ヵ月、もしくは子猫の初年度ワクチンにおける
最後の接種後 12 ヵ月の時点で行われてきました。
ブースターワクチンの主な目的は、必ずしも免疫応答を「強化」することではなく、初年度のコアワクチン接種で
いずれかのワクチンに応答しなかった可能性のある猫に、確実に防御的免疫応答を発現させることです。
つまり、ワクチンに応答しなかった猫は12ヶ月になるまで、不完全な免疫状態で過ごすことになります。
そもそもこの12ヶ月というのは、年1回の健康診断のために飼い主様に動物病院を受診させるのに好都合である理由で
選択されてきた可能性が高いと言われています。そして多くの研究から上記の6ヶ月齢での再接種により、
免疫が不完全な状態の猫が少なくなることがわかってきました。
6ヶ月齢での再接種はこういった理由から推奨されているのです。

成猫のワクチン -1年に1回?3年に1回?-

このように初年度にしっかりとワクチン接種を行い、確実な抗体が維持されるようになれば、ブースターワクチン後は
3年に一回の投与が推奨されています。個々の症例に合わせて抗体価検査などを組み合わせることでより精度を上げて
ワクチンの回数を考えていくことができるといえます。
WSAVAのガイドラインでは例えばウイルス感染猫によく接触するであろう高リスクの猫については年一回の接種が
推奨されています。全ての猫が3年に1回の接種ではないということは理解しておく必要があります。
ワクチンの回数を減らすことで、身体への負担を減らしたり、アレルギーのリスクを減らしたりすることが可能です。
さらに猫では「注射部位肉腫」の発症リスクを下げることができます。
大事なのは、ワクチン接種が3年に一回でいい=病院に行くのが3年に1回でいい、わけではないということです。
抗体価検査で本当にワクチン接種を行わなくていいのかを検査する必要があったり、
健康診断として動物病院を受診することは病気の早期発見、早期治療にとても重要です。

ワクチンが3年に一回でいいとインターネットで見た、知り合いから聞いたなどと言われることも多いです。
決して誤った情報ではないですが、その背景にある、しっかりとした初年度のワクチン接種が必要であり、
さらに個々で違いがあり、ワクチン抗体価検査なども用いて総合的に判断して3年に一回で良いということに
なるといったことを理解する必要があります。
コストを抑えるための3年に一回ではなく、大切な猫の身体を考えた上での3年に一回。
これは同じ3年に一回でも大きな違いです。

医療の発展 -温故知新-

いかがだったでしょうか?論文の内容はこの倍くらいあるのですが、ここまでにします。
今後、ワクチンの回数や頻度が今までと随分違うものになっていく可能性が考えられます。
大切なのはその子、その子にあった方法をかかりつけの先生と考えていくことだと思います。
今までは、10年前、20年前はこうしてて、それで何もなかったから・・といった考えもごもっともだと思います。
ですが、医療は発展していき、犬や猫がより正しく、安全に、幸せに生きていくことができるために、
日々、多くの研究がなされています。多くの病気が分かり、その治療法が考えられています。
その一つ一つの積み重ねの上に、現在の医療があり、それはどんどん新しくなっていきます。
当院でもこれらの話を踏まえ、ワクチンプログラムについて説明をし、飼い主様とその子にあった方法を
考えていこうと思います。

日進月歩の獣医療です。すわ動物病院は日々、精進してまいります!!!

原文はコチラ→2020 AAHA/AAFP Feline Vaccination Guidelines

       WSAVA Guidelines for the vaccination of dogs and cats

 

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