犬の非再生性免疫介在性貧血(NRIMA)についてのお話

みなさん、こんにちは。院長の諏訪です。
暖かい日が続いたと思ったら、突然雪が降ったり、また次の日には暖かくなったり、
気温の差が激しい日が続きますね。
こういう時は、人も動物も体調を崩しやすいです。お気をつけください。

今回は犬の非再生性免疫介在性貧血(NRIMA)に関する論文が2020年の11月に報告されたので
そのお話をしたいと思います。NRIMAについてはこちらも参考にしてください。
NRIMAとは簡単に言うと免疫が絡んだ貧血の病気で、その原因が骨髄にある病気です。
今回の報告では以前にブログでも紹介したPIMAという貧血に関する新たな考え方に対して、
少し異論を唱えるようなものとなっており、とても興味深い内容でした。
このように論文を通じていろいろな討論が行われることはとても素晴らしいと思います。
今回の話も、一般の方にはとても難しい内容となっております。
予め、ご了承ください。

はじめに

NRIMAは赤芽球系前駆細胞のいくつかのステージを免疫学的破壊のターゲットとしていたり、
末梢赤血球も混在して免疫学的破壊を起こす病態であると考えられます。

この研究の目的は
a.NRIMAの特徴を調べること、PIMAやNRIMAの報告と比較すること
b.犬種特異性を調べること
c.多変数解析により予後因子を調べること
です。

材料と方法

retrospective studyとしてデザインされた研究です。
【NRIMAの診断基準】(これら全てを満たすこと)
・PCV<30%の貧血
・貧血と診断して5日以上、網状赤血球の割合(CR%)が1.0未満もしくは
   網状赤血球数が60000/μL未満
・骨髄の細胞診や組織検査で診断に十分な質の免疫学的破壊を認めること
 ・赤芽球系貪食細胞の出現もしくは
 ・赤芽球系低形成、免疫抑制治療に対して貧血が改善する
 ・CBCや血液化学検査、画像検査などで他の原因となる疾患がないこと
です。
寛解の判断は全ての免疫抑制剤を休薬してPCV>30%を保てる場合としています。

結果

59匹のNRIMA罹患犬が対象となり、
平均年齢は7歳7ヶ月齢で、37例が雌、22例が雄でした。体重の中央値は19.2kgです。
ウィペット、ラーチャー、ミニチュア・ダックスフンドが好発犬種と考えられました。
血球の2系統減少は13例、汎血球減少症は1例でした。
14例で高ビリルビン血症を認めました。
ACVIMのIMHAの診断基準のうちdiagnosticに一致する症例が9例、
supportiveが21例、suggestiveが5例でした。

・骨髄の評価
赤芽球系貪食細胞が53例(90%)で認められました。
赤芽球系過形成は33例(56%)、低形成は21例(36%)、正形成は4例(7%)でした。
多染性赤血球は69%で認められました。

・治療
49例の犬が輸血を必要とし、うち28例は再度輸血を行いました。
治療にはプレドニゾロン単独、アザチオプリン、シクロスポリンの併用などが行われました。
抗血小板療法は32例(57%)で行われました。

・予後
59例における生存期間中央値は277日でした。
33例が退院後3ヶ月で生存を認め、29例が赤血球の再生像を中央値31日で認めました。
免疫抑制治療は、18/29例(62%)で中央値7ヶ月で休薬されました。
7/29例でNRIMAの再発を認めました。

・予後因子
多変量解析の結果、CR%>0.2が3ヶ月と12ヶ月での死亡率を有意に減らしました。

考察

60%のNRIMA罹患犬がACVIMのIMHA診断基準の少なくともsuggestiveに該当する特徴を持っていました。
高ビリルビン血症が多くの症例で認められました。
これはPIMAでは稀な症状と考えられています。
IMHAやPIMAなどと混在してしまうリスクも考えられました。
NRIMAとIMHAはオーバーラップする側面があります。

60%の症例は3ヶ月の時点で生存し、多くは1ヶ月以内に再生像が認められました。
一方でいくつかの症例は
15週間の治療後に再生像が認められました。
3ヶ月生きた症例の中で再生像は88%に認められ、他の論文でも似たデータでありました。
例え再生像が出てこなかったとしても、2−3ヶ月は最初の免疫抑制治療を行うべきであると考えられます。

結論

NRIMAの多くの症例は免疫抑制治療に反応し、診断後3ヶ月での生存率は60%でした。
IMHAと病態がオーバーラップする点はあったものの、予後因子は類似しませんでした。

以上が簡単ですが論文の内容になります。
専門用語や専門知識が多く、一般の方にはやや難しい内容だと思います。
僕の中でポイントなのは、しっかり骨髄検査まで行なって診断をだし、
忍耐強く治療を進めていくことだと思います。
治療を行なっても赤血球の再生像が出ないと、とても不安です。
治療反応がなく、諦めてしまうこともあるかもしれません。
ですが、この論文でもあるように、2-3ヶ月はがんばって治療をしてみるのも一つだと思います。

昨年の10月ー12月に健康診断をされる方が多かったです。
普段元気に見えても、実は病気が見つかった子も少なからずいました。
定期的な健康診断の大切さを感じました。
話すことができないからこそ、早期に異変に気付き、対処してあげないといけません。
普段の生活をしっかり観察し、気になることがあればご相談ください。

原文はこちら→
Breed predispositions, clinical findings, and prognostic factors for death in dogs with nonregenerative immune‐mediated anemia

PAGE TOP